マダラギンポ Laiphognathus sp.

 イソギンポ科。1990年、愛媛県室手湾産の個体から、平松らによって日本初記録種L. multimculatusとして報告されました。しかし、精査の結果、どうも海南島産のL. multimculatusとは、別種らしいとのことです(岩田氏私信)。錦江湾では、桜島周辺でたくさん見られます。外海の坊津周辺にも少数見られます。
 この魚は、'98年10月、NHK『生きもの地球紀行』で紹介され、一躍有名になりました。雄が巣穴の中で卵を守り、孵化した稚魚を、巣の外に運んで放つ行動は、とてもおもしろいものです。発見したのは、現在(株)日本水中映像の貞末彰子さんです。'95年当時、鹿児島大学水産学部四宮教室の4年生だった彼女から、この行動を見つけたという連絡を受けたときは、鳥肌が立ちました。翌日、早速見に行ったとき撮ったのが、この写真です。目の前で、展開する、小さな魚がやっていることに、深く、深く感動しました。現在は、後輩の林正岳君が仕事を受け継ぎ、研究を続けています。彼もまた、この魚のおもしろい生活を色々発見しています。いつか、2人の研究が論文となって世に出ると思います。
 こうした、生き物の行動の研究は、地道なフィールド観察の積み重ねによって行われます。私も、同じフィールドで別の魚を追いかけていましたが、毎日の観察は、ジクソーパズルの駒集めです。断片が集まってくると、全体の一部がぼんやりと見えてきます。一種類の魚の暮らしが、だいたい分かってくると、別の種類の生き物との関わりが見えてきます。その生き物を、また調べていくと、また違うものが・・。これを繰り返していくと、その地域の生態系とは言えないまでも、生き物たちの関わり合いが、ぼんやり見えてきます。これからも、いろんな方たちが、いろんな形でこの海に関わり、いろんな視点で海中の世界と関わってゆけば、より深くこの海を理解できると思います。
 話がそれましたが、マダラギンポの感動の放稚魚シーンは、夏、見られます。

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